Top / 相続分の計算方法

目次

1.民法が定める原則(法定相続分)

相続財産の調査の結果、被相続人の遺産の全容がが明らかになったとして、それでは相続人はどのような割合でその遺産を承継できるのでしょうか。
民法はそのことについても定めを置いています。

(1)第1順位:配偶者と子(その代襲相続人を含む)が相続人である場合

配偶者及び子は各1/2の相続分を受けます(民法900条1号)。

このとき、子が数人あるときは、子各自の相続分は均等となります(民法900条4号本文)。

例:900万円の遺産について、妻と3人の子ABCが相続人である場合

  • 妻 900万円×1/2=450万円
  • 子(嫡出子・非嫡出子を問わない)
    900万円×1/2×1/3(頭数割り)=150万円(ABC均等)


(2)第2順位:配偶者と直系尊属が相続人である場合

配偶者は2/3、直系尊属は1/3の相続分を受けます(民法900条2号)。

このとき、直系尊属が数人あるとき(親等が同じ直系尊属が数人いる場合です)は、直系尊属各自の相続分は均等です(民法900条4号本文)。

例:900万円の遺産について、妻と両親が相続人である場合

  • 妻 900万円×2/3=600万円
  • 両親 900万円×1/3×1/2(頭数割り)=150万円(両親均等)


(3)第3順位:配偶者と兄弟姉妹(その代襲相続人を含む)が相続人である場合

配偶者は3/4、兄弟姉妹は1/4の相続分を受けます(民法900条3号)。

このとき、兄弟姉妹が数人あるときは、兄弟姉妹各自の相続分は均等であるのが原則なのですが、半血の兄弟姉妹(被相続人と父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹)の相続分は全血の兄弟姉妹(被相続人と父母の双方を同じくする兄弟姉妹)の相続分の1/2となります(民法900条4号ただし書)。

例:900万円の遺産について、妻と2人の兄弟DEが相続人である場合

  • 妻 900万円×3/4=675万円
  • 兄弟(2人とも全血または半血の場合)
    900万円×1/4×1/2(頭数割り)=112万5千円(DE均等)


    (Eが半血の兄弟姉妹の場合)
  • 900万円×1/4×1/3(2+1を分母として割る)=75万円(Eの相続分)
  • 900万円×1/4×2/3(割合としてはEの2倍なので)=150万円(Dの相続分)


2.遺言による相続分の指定(指定相続分)

上記の民法が定める原則に関係なく、被相続人は、遺言によって相続分を定めることができます(指定相続分、民法902条1項)。
遺言というのは被相続人の最後の意思表示ですから、民法の規定よりも優先させることとしたのです(優先順位:指定相続分>法定相続分)。

ただ、被相続人の意思表示を優先するといっても、「遺産はすべて国に寄付する」といった遺言がそのまま認められてしまっては、相続をあてにしていた遺族 にとってあまりにも酷です。そこで、被相続人の財産処分の自由と遺族の生活保障とのバランスをとるために民法が設けたのが、遺留分制度です(民法1028条)。

遺留分については、後に項を改めて述べることにします。

3.特別受益者がある場合の相続分

これまで見てきたように、遺言によって相続分が指定されている場合(指定相続分)にはそれが優先し、遺言による指定がない場合には民法の定め(法定相続分)に戻る、というのが、相続分に関する原則的な考え方でした。

しかし、この原則的な考え方がストレートに適用できない場合があります。それは、相続人が被相続人から遺贈(遺言による贈与のことをこういいます)を受けた場合と、婚姻や養子縁組のためもしくは生計の資本として生前贈与を受けた場合です。

このような場合に、贈与された分を全く考慮しないで法定相続分(あるいは指定相続分)通りに分け前を決めてしまうと、贈与を受けた相続人は、贈与分まるまるもらい得となってしまい、贈与を受けなかった他の相続人との間に不公平が生じてしまうからです。
 
そこで民法は、このような遺贈や生前贈与を受けた相続人(特別受益者)がある場合について、次のような調整の規定を置きました。

(1)遺贈を受けた者がある場合

遺贈と言っても、何か特定の財産を与えるもの(「自動車を贈与する」「100万円を贈与する」といったもの。特定遺贈といいます)と、遺産の一定割合を 与えるもの(「遺産の4分の1を贈与する」といったもの。包括遺贈といいます)とがありますが、後者は遺言による相続分の指定(指定相続分)と実質的には 同じものとみることができます。よって特別受益者の問題となるのは前者の特定遺贈だということになります。

特定遺贈を受けた者の相続分の計算方法ですが、法定相続分(あるいは指定相続分)に従って算定した相続分の中からその遺贈の価額を控除した残額がその者の相続分となります(民法903条1項)。

このように調整して算出された相続分のことを、法定相続分や指定相続分と区別する意味で、具体的相続分ということがあります。

例:800万円の相続財産を残して夫が亡くなり、妻と2人の子AB(ともに嫡出子)が相続人であるが、妻が200万円の遺贈を受けた、という場合

  • 妻 800万円×1/2(法定相続分)-200万円(遺贈の価額を控除)=200万円(具体的相続分)
  • 子 800万円×1/2(法定相続分)×1/2(頭数割り)=200万円(AB均等)

では、同じ例で、妻の受けた遺贈が500万円だったとしたら、どうなるのでしょう? 
上記の計算方法によれば、

  • 妻 800万円×1/2(法定相続分)-500万円(遺贈の価額を控除)=-100万円

となって、妻の具体的相続分はマイナスになってしまいます。妻は遺贈の価額500万円の中から100万円を払い戻さなければならないのでしょうか?

この場合について、審判例と学説の多数的見解は次のような計算方法をとっています。

①まず、各人の具体的相続分を算定します。

  • 妻 800万円×1/2(法定相続分)-500万円(遺贈の価額を控除)=-100万円→0円
    (マイナスが出たら具体的相続分を0円とする。この場合、妻は500万円の遺贈だけを受けるということ。民法903条2項)
  • 子AB 800万円×1/2(法定相続分)×1/2(頭数割り)=200万円
    (子に特別受益はなく、具体的相続分はそのまま200万円ということになる。)


②次に、全員の具体的相続分を合算して、計算上の遺産総額を求め、その計算上の遺産総額に占める各人の具体的相続分の割合(具体的相続分率)を算出します。

 0円+200万円+200万円=400万円(計算上の遺産総額)

  • 妻 0円/400万円=0(具体的相続分率)
  • 子AB 200万円/400万円=1/2(具体的相続分率)



③次に、上記の具体的相続分率の割合で現実に分配可能な遺産額を分けて、最終的な相続金額を確定します。

 800万円-500万円(遺贈の価額)=300万円(現実に分配可能な遺産額)

  • 妻 300万円×0(具体的相続分率)=0円
  • 子AB 300万円×1/2(具体的相続分率)=150万円



④以上から、最終的に相続される金額は、次のようになります。

  • 妻 0円(遺贈500万円のみ)
  • 子A 150万円
  • 子B 150万円


(2)生前贈与を受けた者がある場合

遺贈の場合には、遺言で贈与をするわけですから、相続開始の時点(つまり被相続人が亡くなった時点)ではまだ遺贈の対象となる財産は、相続財産 の中に含まれて残っています。ですから、通常の相続分(法定相続分あるいは指定相続分)から遺贈の価額を引くという単純なやり方で具体的相続分を算出することができたわけです。

これに対して、生前贈与を受けた者がある場合には、相続開始の時点では、贈与の対象である財産は既に贈与されてしまっているわけですから、相続財産の中には残っていないことになります。そこで、既に贈与されてしまった財産を相続財産の中に引き戻して考える(これを持戻しといい、あくまで計算上の操作です)ことが必要になってきます。

具体的には、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその生前贈与の価額を加えたものを相続財産とみなします(みなし相続財産。民法903条1項)。

生前贈与を受けた者の相続分の計算方法ですが、みなし相続財産に法定相続分(あるいは指定相続分)を乗じて算定した相続分の中から生前贈与の額を控除した残額がその者の具体的相続分となります(民法903条1項)。

例:1200万円の相続財産を残して夫が亡くなり(遺言なし)、妻と3人の子ABC(ともに嫡出子)が相続人であるが、夫は生前Aに600万円を贈与していた、という場合


①生前贈与が行われているので、まず、その贈与額の持戻しをします。

 1200万円+600万円=1800万円(みなし相続財産)


②次に、各人の具体的相続分を算定します。

  • 妻 1800万円×1/2(法定相続分)=900万円
    (妻に特別受益はなく、具体的相続分はそのまま900万円となる)
  • 子A 1800万円×1/2(法定相続分)×1/3(頭数割り)-600万円(生前贈与額を控除)=-300万円→0円
    (マイナスが出たら具体的相続分を0円とする。)
  • 子BC 1800万円×1/2(法定相続分)×1/3(頭数割り)=300万円
    (子B・Cに特別受益はなく、具体的相続分はそのまま300万円となる)



③次に、計算上の遺産総額を求め、各人の具体的相続分率を算出します。

 900万円+0円+300万円+300万円=1500万円(計算上の遺産総額)

  • 妻 900万円/1500万円=3/5(具体的相続分率)
  • 子A 0円/1500万円=0(具体的相続分率)
  • 子BC 300万円/1500万円=1/5(具体的相続分率)



④次に、上記の具体的相続分率の割合で現実に分配可能な遺産額を分けて、最終的な相続金額を確定します。

 1200万円(現実に分配可能な遺産額)

  • 妻 1200万円×3/5(具体的相続分率)=720万円
  • 子A 1200万円×0(具体的相続分率)=0円
  • 子BC 1200万円×1/5(具体的相続分率)=240万円



⑤以上から、最終的に相続される金額は、次のようになります。

  • 妻 720万円
  • 子A 0円(生前贈与600万円のみ)
  • 子B 240万円
  • 子C 240万円


(3)生前贈与額の評価方法

なお、持戻しの時に、生前贈与額をどのように評価するのかは問題です。生前贈与がはるか昔のことであったような場合には、相続開始までにの間に贈与財産 が処分されていたり、滅失・毀損していたり、また手を加えた結果として価額が増加している、といったことがありうるからです。

この点について民法は、贈与を受けた者の行為によって、その贈与財産が滅失し、又は価額の増減があった時でも、贈与当時の状態で存在しているものとみなして評価する、という規定を置いています(民法904条)。
これに対し、地震など、贈与を受けた者の行為によらずに贈与財産が滅失したときは、その滅失した贈与財産は持 戻しの対象にはならないとされています。
そのような場合にまで滅失した贈与財産を相続財産に戻して計算するのは、贈与を受けた者に酷だからです。

さらに、贈与当時の状態で存在しているものとみなされた財産を、いつの時点で評価するのか、という問題もあります。この評価の基準時については、相続開始時というのが判例・学説の一致した見解です。つまり、相続開始時の貨幣価値で贈与額を評価し直す、ということです。

4.寄与分がある場合の相続分

相続人の中に、相続財産の維持又は増加について寄与貢献している者がある場合(例えば、農家において長男が家業を手伝ってきたような場合)、雇用契約などがある場合は別として、その労働力に対する報酬は考慮されていないのが普通です。

よって、これを相続分の算定にあたって全く計算に入れないと、不均衡な結果となってしまいます。農家をずっと手伝ってきた長男と、故郷を離れて大学に通っている次男とが同じ相続分であるとすると、確かに不公平な感じは否めません。

そこで、民法は、この不公平を是正するための規定を設けました。上記の例でいえば、長男の寄与を相続分の算定にあたって考慮しようというのです。これを寄与分制度(民法904条の2)といいます。

(1)寄与分を求めることができる者(寄与分権利者)の範囲

民法は、寄与分制度によって寄与分を求めることができる者を相続人に限りました(民法904条の2 1項)。
 
よって、内縁の配偶者や相続人の配偶者には寄与分は認められないことになります。

気の毒な感じがしますが、これらの人たちは不当利得返還請求(法律上の原因がないのに、他人の財産や労務によって利益を受け、それによってその他人に損失を及ぼしたときは、その損失を受けた者は受益者に対して、その利益の返還を請求することができる。民法704条)など、別の手段で権利を主張するよりほかに方法 がありません。

(2)寄与とは何を指すか

次に問題となるのは、どのような「寄与」が寄与分制度において考慮されるのか、ということです。
これについて民法は、「被相続人の財産の維持・増加につき特別の寄与」があることが必要だとしています(民法904条の2 1項)。
つまり、どんな方法であれ、財産の維持・増加に結びつかなければ、寄与分制度における「寄与」とはならないということです。

また、「特別」というのは、通常の夫婦の協力義務や親族の扶養義務の範囲を超える程度の寄与、という意味であるとされています。

(3)寄与分の確定と具体的相続分の計算

寄与分は、共同相続人の協議によって定めるのが原則です。
もし、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、寄与者の請求により、家庭裁判所が、一切の事情(寄与の時期、方法・程度、相続財産の額など)を考慮して寄与分を審判で定めます(民法904条の2 2項)。

寄与分を有する者の相続分の計算方法ですが、まず、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から 共同相続人の協議で定めた寄与分を控除したものを相続財産とみなします(みなし相続財産)。
そして、みなし相続財産に法定相続分(あるいは指定相続分)を乗じて算定した相続分に寄与分を加えた額がその者の具体的相続分となります(民法904条の2 1項)。

例:1200万円の相続財産を残して夫が亡くなり(遺言なし)、妻と3人の子ABCが相続人である。そして長男Aの寄与分が300万円と定められた、という場合


①寄与分が定められているので、まずその寄与分を相続財産から控除します。

 1200万円-300万円=900万円(みなし相続財産)


②次に、法定相続分に応じた各自の相続分を算定します。

  • 妻 900万円×1/2(法定相続分)=450万円
  • 子 900万円×1/2(法定相続分)×1/3(頭数割り)=150万円(ABC均等)



③次に、寄与分を有する者の具体的相続分を算定します。

  • 子A 150万円+300万円(寄与分を加える)=450万円



④以上から、最終的に相続される金額は、次のようになります。

  • 妻 450万円
  • 子A 450万円(うち寄与分300万円)
  • 子B 150万円
  • 子C 150万円


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